SNSやマッチングアプリなどで知り合った相手に、LINEで「殺すぞ」などと脅迫された。名前や住所は分からないが、相手を特定して訴えることはできるだろうか。こんな悩みで苦しんでいる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、脅迫罪はどのような場合に成立するのか、LINEを使った脅迫罪での実際の逮捕事例、どのようなLINEが脅迫罪にあたるのかを紹介してから、知らないLINE相手の特定方法、氏名住所不詳でも脅迫罪で刑事告訴できるかを解説していきます。
脅迫罪はどのような場合に成立するのか
LINEにおける脅迫罪の成否を考える前に、そもそも一般的な「脅迫罪」とは、どのような行為を行うと成立するのでしょうか。
脅迫とは「害悪の告知」
刑法第222条によると、人の生命や身体、自由、名誉や財産に対して、危害を加えると告知する、いわゆる「害悪の告知」を行った場合に、脅迫罪として2年以下の懲役あるいは30万円の罰金が科されます。
具体的な脅迫例として考えられるのは、次のような告知です。
・「殺すぞ」(生命に対する害悪の告知)
・「ボコボコにするぞ」(身体に対する害悪の告知)
・「監禁するぞ」(自由に対する害悪の告知)
・「裸の写真をSNSにアップするぞ」(名誉に対する害悪の告知)
・「金を奪うぞ」(財産に対する害悪の告知)
脅迫罪とみなされる対象者
脅迫罪の対象となるのは、脅迫を受けた本人だけではなく、親族への害悪の告知も含まれます。たとえば、妻や子ども、父母や兄弟に危害を加えると告知した場合は、脅迫とみなされる可能性が高いです。
一方、「お前の友人や恋人を殺されたくなければ金を出せ」など、友人や恋人への害悪を避けるかわりに何かの行為を強要する行為は、脅迫罪ではなく強要罪にあたります。強要罪とは、暴行や脅迫によって、義務がない行為を人に行わせる犯罪行為で、3年以下の懲役が科せられます。
「害悪の告知」とは人を畏怖させる行為
「害悪の告知」としてみなされるのは、人を畏怖させる(恐怖心を与える)行為です。その行為が、客観的に人を畏怖させる程度のものかどうかが判断されます。
判断基準のひとつに、相手との関係性や体格差などが挙げられます。たとえば、仲が良い男女間で、小柄な女性が大柄な男性に、冗談で「殺すぞ」と言っても、脅迫とはみなされません。しかし、仲が険悪な間柄で、巨体の男性が小柄な女性に「殺すぞ」と言えば、害悪の告知とみなされる可能性があります。
また、相手が実際に恐怖を感じたか、具体的な加害の内容や方法を伝えたかどうかは問われません。
畏怖させる行為は、告知側が害悪発生をコントロール可能
さらに、畏怖させる行為かどうかは、告知側が、害悪の発生をコントロールできると客観的にみなされる必要があります。
たとえば、殺害や強盗の告知は、告知する側が実際の行為をいつどのように行うかコントロールできるため、告知される側も恐怖を感じるのです。対して、「天罰がくだる」という告知は、告知側が天罰をコントロールできないため、害悪の告知とはみなされません。
脅迫罪は、あらゆる伝達手段において成立する
脅迫罪は、相手に危害を加えると告げれば成立します。口頭だけではなく、手紙やメール、掲示板やSNSへの書き込み、LINEのメッセージなど、あらゆる伝達手段が対象です。さらに、相手に伝われば、直接的な伝達のみならず、人を介するなど間接的な伝達でもよいとされます。
LINEを使った脅迫罪における実際の逮捕事例
実際に、LINEを使った脅迫罪とみなされて、逮捕や書類送検された事例の一部を紹介します。
・寝坊してデートに来なかった交際相手の自宅に行ったが、相手が出てこなかったため、LINEで「殺すぞ」といったメッセージを3回送り、脅迫容疑で逮捕
・元交際相手に、LINEで「死ね」「ボコボコにするので気をつけろ」といったメッセージを送り、脅迫容疑で逮捕
・交際相手の母親に、LINEで「徹底的に追い込む」「世の中物騒だから窓割って家に入られたりする。気をつけろ」といった主旨のメッセージを10回送り、脅迫容疑で逮捕
・元交際相手に、LINEで「殺してやる」「包丁をもって待ってる」といったメッセージを約3ヶ月で800回以上送り、脅迫容疑で逮捕
・元同僚に、LINEで「刑務所に何年も入ることになるぞ」といった身体の自由を害するメッセージを送り、脅迫容疑で逮捕
・パパ活相手の女性に、盗撮した性的な画像や動画を送りつけ、恋人と別れなければ、恋人の会社などに動画を送ると脅迫した容疑で書類送検
逮捕された脅迫罪の対象は、交際相手など関係が密接な相手が多いですが、対象がだれであっても、脅迫すれば脅迫罪の対象となります。
どのようなLINEが脅迫罪にあたるのか
ここまでの内容をまとめて、どのようなLINEのやり取りが脅迫罪にあたるのかを解説します。
まず、「LINEで脅迫罪は成立するか」ですが、相手に危害を加えると伝えれば、LINEでもメールでも脅迫罪は成立します。さらに、口頭と比べて、LINEはメッセージの履歴が記録として残るため、警察への被害届が受理されやすいです。
脅迫罪になるLINEのメッセージ
「どのようなLINEのメッセージが脅迫罪とみなされるか」ですが、メッセージに書かれた内容が、普通の人なら恐怖を感じると客観的に判断される程度なら成立します。そのため、「殺すぞ」など、生命・身体・自由・名誉・財産に対して危害を加えようとする強い言葉は、脅迫罪に該当する可能性があります。
ですが、あるメッセージが脅迫罪にあたるとみなされるかどうかは、言葉の内容だけではなく、相手との関係性や状況に左右されます。たとえば、同じ「殺すぞ」という言葉でも、仲の良い友人と、文脈から明らかに冗談と分かるようなLINEなら、脅迫罪になる可能性は低いです。
しかし、男性上司と女性部下など、立場や年齢差、性別差がある関係性で、「取引を失敗したら殺す」など深刻な文脈でLINEを送ったら、一般的に恐怖を感じる状況とみなされ、脅迫罪が成立する可能性が高まるでしょう。
LINEのスタンプは脅迫になる?
脅迫は、相手に危害を加えると伝える手段なら、言語に限らず、絵や態度などのあらゆる手段において成立します。たとえば、一触即発しかねない関係の相手から、ナイフで何かを刺しているスタンプが送られてきたら、だれでも恐怖を感じるでしょう。そのため、脅迫罪として成立する可能性があります。
SNSなどで知り合った人に、LINEで脅迫された場合
では、知らない人とSNSなどを経由して知り合いになり、LINEのメッセージで脅迫された場合、脅迫罪は成立するでしょうか。
知り合って間もない、薄い関係性で、「隠し撮りした裸の動画をSNSで公開する」などのLINEメッセージをもらえば、脅迫罪が成立する可能性は高いです。冗談であっても、実際に相手が恐怖を感じたかではなく、一般的に恐怖を感じるとみなされる内容なら脅迫罪は成立するため、「冗談だった」とごまかしても、脅迫罪が成立する可能性があります。
よく知らないLINE相手を特定する方法
名前や住所、勤務先などを知らない相手とLINEのやり取りをしていて、LINEで脅迫されたので刑事告訴をしたい場合、どうしたら相手を特定できるでしょうか。
スマホ・携帯の電話番号や、キャリアメールが分かる場合
スマートフォンや携帯の電話番号、またはキャリアメールのアドレスが分かる場合は、弁護士に依頼すれば、「弁護士会照会」という制度によって相手を特定できます。
弁護士会照会とは、弁護士が依頼された事件の処理に必要な情報を収集するため、公私の団体などに情報の照会ができる制度です。具体的にいうと、この場合は、携帯会社に電話番号やキャリアメールのアドレスを問い合わせて、氏名や住所などの契約者情報を照会することができます。
ただし、携帯会社によっては照会を断るケースがある点、Gメールのアドレスのみ分かる場合、Gメールを扱っているGoogle(外国企業)は弁護士会照会には応じない点には注意しましょう。
LINEのIDが分かる場合
LINEのIDとは、小文字の半角英数字で構成されている文字列です。相手のホーム画面やトーク画面の左上に表示される「名前」ではありません。LINEのIDが分かる場合は、弁護士会照会により、LINE株式会社から、登録されている電話番号を照会できる可能性があります。
LINEのIDや電話番号による検索で分かる情報
LINEでは、IDや電話番号による検索で友だち追加ができますが、その際に分かるのは、LINEで表示される名前や、ホーム画面に記載されたプロフィールなど、相手がLINEに登録している情報のみです。本名や住所、メールアドレスなどの個人情報は、相手がホーム画面に記載していない限り分かりません。
LINEの名前や、ホーム画面・トーク画面しか分からない場合
相手の電話番号やLINEのIDなどが分からず、LINEで表示される名前や、ホーム画面・トーク画面などの情報しか分からない場合は、その情報だけでは弁護士会照会ができません。
LINEの名前やアイコンの画像が手がかりになることも
基本的には、LINEの名前だけしか分からない場合は、そこから何らかの個人情報を得るのは難しいです。
ただし、LINEの名前を本名で登録している場合は、その氏名で携帯会社に弁護士会照会が可能です。さらに、本名でインターネット検索をすると、FacebookなどのSNS、人によっては勤務先や学校のホームページに掲載されている情報などが分かることもあります。
また、LINEの名前に登録しているニックネーム、特にアイコンの画像で画像検索してみると、同じニックネームやアイコン画像で、TwitterなどのSNSに登録しているケースがあります。その場合はSNSに、最寄り駅や勤務先などの個人情報が類推できる情報を投稿していることもあるので、一度検索してみるとよいでしょう。
氏名や住所が不明でも、脅迫罪で刑事告訴できるか
では、よく知らないLINEの相手を特定できなかった場合、名前や住所が分からなくても、脅迫罪で刑事告訴できるのでしょうか。
脅迫などの犯罪被害を受け、犯人の処罰を求める場合には、刑事告訴を行って、捜査機関に犯罪の事実を申告することが必要です。刑事告訴のためには、告訴状を警察署に提出します。
告訴には対象となる犯罪事実の特定が必要ですが、犯人が特定できていない状態でも告訴可能です。つまり、氏名不詳・住所不明な相手でも理論上は告訴できます。その場合は、捜査機関が犯人をできるだけ特定できるよう、性別や推定年齢、生年月日、身長や人相など、分かっている特徴はすべて告訴状に記載します。
ですが、現実には犯人を特定する有力な証拠がない限り、なかなか刑事告訴を受理してもらえません。そのため、SNSなどで知り合った身元が特定できない相手を刑事告訴するには、事前にできるだけ個人情報を集めておく必要があります。
よく知らない相手をLINEを使った脅迫罪で刑事告訴するには
SNSなどで知り合ってLINEで脅迫してきた、名前も住所も知らない相手を刑事告訴するには、どうするのがベストな方法なのでしょうか。
脅迫罪は、人の生命や身体、自由、名誉や財産に危害を与えると告げ、それが一般的に恐怖を感じる程度の脅迫なら、LINEなどの、文字やスタンプで気持ちを伝えるツールでも成立します。
名前や住所を知らなくても、電話番号やキャリアメールのアドレス、LINEのIDのいずれかが分かっていれば、相手を特定できる可能性があります。そのためには、弁護士に依頼して、弁護士会照会制度を利用することが必須条件です。
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