取引先の担当者から電話が入り、会社の名称で検索すると見慣れない書き込みが上位に出ている、と告げられた。確認すると、匿名の投稿が、経営者の私生活を名指しし、製品の品質について根拠のない断定を並べている。投稿は既に別の場所へ転記され、画面の複製が画像として貼り付けられている。こうした場面の御相談を、当事務所は数多くお受けします。
この場面で経営者の皆様が最初に直面するのは、法律上の評価の問題ではなく、時間の問題です。投稿は複製され、転記され、順位が上がり、元の投稿が消えても複製が残ります。他方で、投稿者にたどり着くための通信の記録は、事業者の側で一定の期間を経過すると失われます。増えていくものと、失われていくものとが、同時に進行します。
結論から申し上げます。気付いた直後に行うべき作業は、削除の申入れでも反論でもなく、投稿の存在と内容を後日の裁判の手続で用いることができる形で固定することであり、この作業を数日のうちに終えられるかどうかが、その後に採ることのできる手段の幅を決めます。投稿が消えた後に「そのような投稿があった」とだけ述べても、損害賠償の請求も刑事の告訴も組み立てることができません。以下、順に御説明します。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
被害の発生から手続の終結までは長く、局面ごとに採るべき作業が異なりますので、次のとおり切り分けます。
- 投稿に気付いた直後の数日間に行う保全と社内の体制の整備の場面……本記事
- 削除そのものを求める手続の全体を知る場面……インターネット上の投稿の削除請求|任意の削除から仮処分までの手順
- 匿名の投稿者を裁判所の手続で特定する場面……発信者情報開示命令の申立ての手続と要する期間
- 店舗又は事業所に対する評価の書き込みへ対応する場面……事実と異なる口コミが投稿された場合の事業者の対応
- 書き込んだのが従業員又は元従業員であると疑われる場面……従業員又は元従業員による社内情報の投稿及び持ち出しへの対応
気付いた時点で、投稿は既に拡散している場合があります
会社が投稿に気付く経路は、社員による発見、取引先からの指摘、採用の応募者からの質問、金融機関の担当者からの照会のいずれかであることが通常です。いずれの経路であっても、社内の誰かが最初に見た時点が投稿の時点ではありません。投稿から発見までに数週間を経過している場合があります。
その間に何が起きているかを、先に把握してください。第一に、同一の内容が別の場所へ書き写されている可能性があります。第二に、画面の複製が画像として保存され、文字の検索では見つからない形で流通している可能性があります。第三に、投稿の内容を引用した第三者の記述が新たに生まれ、それ自体が検索の対象になっている可能性があります。
したがって、最初に着手すべき作業は、一つの投稿への対処ではなく、範囲の確定です。会社の商号、屋号、代表者の氏名、主力製品の名称、店舗の名称、これらの読み仮名及び略称を組み合わせて検索し、出てきたものを漏れなく一覧にします。この一覧が、以後のすべての手続の出発点となります。
最初にすべきことは、記録の保全です
保全とは、投稿が後日削除されても、その存在、内容、掲載の日時及び掲載の場所を証明できる状態を作ることを指します。削除の申入れを先に行いますと、投稿が消え、証拠も同時に消えます。順序を誤ってはなりません。
保全すべき事項は五つです。第一に、投稿の本文の全文です。第二に、投稿が掲載されている場所を示す文字列です。第三に、投稿の日時の表示です。第四に、投稿者として表示されている名前又は番号です。第五に、投稿の前後に並ぶ他の投稿です。第五の点は、文脈によって意味が変わる表現の解釈に用いますので、省略してはなりません。
あわせて、その投稿によって会社に何が生じたかを記録します。取引の停止の申入れ、注文の取消し、採用の辞退、金融機関からの照会、これらは日付と相手方を特定して記録してください。民法第709条は、故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。損害の立証は、この記録の有無によって決まります。
保全の方法と、後日の手続で通用する形
画面の複製を保存する場合には、日付と時刻の表示、及び場所を示す文字列が同一の画面の中に写り込んでいる必要があります。本文だけを切り取った画像は、いつどこに掲載されていたかを示しませんので、証拠としての価値が下がります。
長い投稿の場合には、画面を分割して複製し、重なりを持たせて連続していることが分かるようにします。あわせて、その頁の表示を電子的な文書として一括して出力し、複製の画像と組み合わせて保存してください。表示を出力した文書には、出力した日時が記録されます。
投稿が短期間で消える性質のものである場合、又は相手方が争う姿勢を示している場合には、公証人に事実実験公正証書の作成を依頼する方法があります。公証人が自ら画面を確認し、その内容を公正証書に記載しますので、第三者による確認の記録として扱われます。費用と日数を要しますので、被害の大きさとの兼ね合いで判断します。
保全した資料は、社内の共有の場所ではなく、担当者を限定した場所に、通し番号を付して保存します。番号と内容の対応表を作成してください。手続が進みますと、削除の請求、開示の申立て、告訴、損害賠償の請求で、それぞれ異なる組合せの資料を提出することになりますので、対応表がなければ管理できなくなります。
社内の窓口を一本化する必要
投稿の存在が社内に知られますと、複数の社員がそれぞれの判断で行動を始めます。ある者は投稿の場所に説明を書き込み、ある者は取引先に電話をかけ、ある者は社内の連絡の場に画面の複製を貼り付けます。これらはいずれも、後の手続に不利に働きます。
窓口は、法務又は総務の責任者一名と、その補助者一名に限定してください。責任者の役割は、外部への回答の一元化、社内からの報告の集約、及び弁護士との連絡です。補助者の役割は、保全の作業と一覧の維持です。それ以外の社員には、投稿を見つけた場合には窓口に報告することのみを求め、他の行動を禁じます。
この指示は、口頭ではなく文書で行ってください。禁止する行動を具体的に列挙します。投稿の場所への書き込み、投稿者と推測される人物への接触、社外の者への転送、社内の連絡の場での共有、これらを明示的に禁じます。文書として残すことにより、後に社員が独自に行動した場合の会社の責任の範囲を切り分けることができます。
反論の投稿をしてはならない理由
投稿の内容が事実に反する場合、そこに反論を書き込みたくなることは自然です。しかし、反論の書き込みは三つの不利益を生みます。
第一に、投稿の閲覧の数が増えます。書き込みがあった場所は、新しい書き込みによって上位に表示され、これまで見ていなかった者の目に触れます。第二に、応酬の記録が残ります。会社の側の書きぶりが感情的であれば、その部分だけが切り取られ、新たな批判の材料となります。第三に、反論の中で会社が述べた事実が、後の手続における会社の主張を拘束します。慌てて書いた不正確な記述が、相手方から引用されることになります。
投稿者に直接連絡を取ることも避けてください。相手方が特定できていない段階での接触は、相手方に証拠を消す時間を与えます。特に、投稿の削除を求める趣旨の連絡を送りますと、投稿者は自らの投稿を消したうえで、別の場所に同じ内容を書き直します。保全が終わる前の接触は、証拠を失うだけの結果に終わります。
取引先及び金融機関への説明をどの範囲で行うのか
説明の要否は、相手方が既に投稿を認識しているかどうかによって分かれます。認識していない相手方に会社の側から説明を持ち出しますと、存在を知らせることになりますので、原則として行いません。
照会を受けた相手方に対しては、次の三点を、書面で、簡潔に伝えます。第一に、当該投稿の内容は事実に反すること。第二に、事実に反することを示す資料を保有していること。第三に、削除及び投稿者の特定に向けた手続に着手していることです。推測、投稿者の見当、社内の調査の途中経過は記載しません。
金融機関に対しては、これに加えて、業績への影響の有無を数値で示します。受注の状況、売上げの推移、主要な取引の継続の状況を、月次の数値で提示してください。金融機関が懸念するのは投稿の内容そのものではなく、事業への影響ですので、影響がないのであれば数値で示すことが最も有効です。影響が生じている場合には、その額を記録し、後の損害賠償の請求における資料とします。
削除、開示及び刑事の手続の順序をどのように決めるのか
採り得る手段は、投稿の削除を求めるもの、投稿者を特定するもの、刑事の責任を追及するものの三種に分かれます。三つを同時に始めるべきではありません。順序を決める基準は、被害の性質です。
投稿が現に取引の停止を生じさせており、拡大が続いている場合には、削除を先行させます。緊急を要する場合には、民事保全法第23条第2項が定める仮の地位を定める仮処分命令の申立てにより、投稿の削除を求めることができます。同項は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができると定めています。
投稿が継続的に繰り返されており、投稿者を止めなければ収まらない場合には、特定を先行させます。削除を先に行いますと、投稿の記録が消え、特定のための資料を失う場合がありますので、削除の要求の前に必要な情報を確保します。
刑事の手続については、刑法第230条第1項が公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した者を、同法第231条が事実を摘示しないで公然と人を侮辱した者を、同法第233条が虚偽の風説を流布し又は偽計を用いて人の信用を毀損し又はその業務を妨害した者を、それぞれ処罰の対象としています。会社の信用に対する加害が中心である場合には、第233条の適用の可否を検討します。刑事の手続は、告訴の受理から捜査の進行までに日数を要しますので、民事の手続と並行して進める設計とします。
なぜ通信記録の保存期間が初動の期限を決めるのか
匿名の投稿者にたどり着くためには、投稿が行われた際の接続の記録が残っていることが前提となります。この記録は、通信の役務を提供する事業者が業務上の必要から保有するものであり、法令が会社のために保存を義務付けているものではありません。事業者が業務上不要と判断した時点で、記録は失われます。
保存の期間は事業者ごとに異なり、外部からは分かりません。したがって、会社の側で採ることのできる対応は、期間を確かめることではなく、記録が失われる前に手続を開始することのみです。投稿の発見から手続の着手までに要する日数を、可能な限り圧縮する必要があります。
圧縮のために先に済ませておくべき作業は三つです。第一に、保全の完了です。第二に、投稿の内容が事実に反することを示す社内の資料の収集です。第三に、代理人となる弁護士への依頼です。この三つが揃っていれば、申立ての準備は数日で整います。逆に、社内で対応方針を協議している間に日数が経過することが、最も多い失敗の形です。
弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期
弁護士が担うのは、保全した資料の証拠としての適否の判断、投稿の内容が違法な権利の侵害に当たるかどうかの評価、削除の請求と特定の手続の順序の設計、裁判所への申立て、取引先及び金融機関への説明の文案の作成、社内への指示の文書の作成、並びに投稿者が判明した後の損害賠償の請求です。
投稿者が同業の事業者であることが疑われる場合には、不正競争防止法による構成の可否を早い段階で検討します。同法第2条第1項第21号は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布を不正競争の一類型として掲げており、同法第3条第1項によって、その停止又は予防を求める道が開かれています。着手の前に、投稿の内容と当社の事業との競争の関係を整理してください。
依頼の時期は、投稿を発見した当日から翌営業日までです。保全を社内で終えてから相談するという順序は、保全の方法を誤った場合に取り返しがつきませんので、勧められません。保全の作業と並行して相談し、方法の適否を確認しながら進めることが確実です。
いま確認していただきたいこと
会社の商号、屋号、代表者の氏名、主力の製品又は役務の名称、店舗の名称の五つについて、それぞれ検索を行い、投稿の一覧を作成してください。一覧には、掲載の場所、投稿の日時、投稿者の表示、内容の要旨、保全の完了の有無を記載します。
次に、投稿の内容のうち、事実の摘示に当たる部分を抜き出し、その一つ一つについて、事実に反することを示す社内の資料が存在するかどうかを確認してください。品質に関する記述であれば検査の記録、取引に関する記述であれば契約書と入出金の記録、労務に関する記述であれば就業規則と勤怠の記録が、これに当たります。
最後に、社内への指示の文書を作成し、窓口の氏名、禁止する行動、報告の方法を明記して周知してください。この三つが揃った段階で、弁護士に資料を提示すれば、手続の選択と着手までの日数を具体的に示すことができます。
よくあるご質問
投稿が既に削除されている場合でも、投稿者を特定することはできますか
投稿の内容と掲載の場所を示す資料が保全されており、かつ接続の記録が事業者に残っている場合には、特定を進めることができます。いずれかが失われている場合には困難となります。削除された投稿については、複製の画像や第三者による引用が残っていないかを確認してください。
会社に対する投稿でも、名誉毀損になりますか
法人についても、社会的な評価が低下する場合には、権利の侵害として扱われます。民法第710条は、他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、財産以外の損害についても賠償の責任を負うと定めています。加えて、法人の場合には信用の毀損として構成する余地があります。
謝罪の広告を求めることはできますか
民法第723条は、他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができると定めています。もっとも、この処分が認められる範囲は限られますので、削除と損害賠償を中心に組み立てることが実務上の通例です。
社内の誰にも知らせずに進めることはできますか
保全の作業と資料の収集には、複数の部署の協力が必要となりますので、完全に伏せたまま進めることはできません。範囲を限定し、目的を告げずに資料の提出のみを求める方法によって、社内での拡散を抑えることができます。
費用はどの段階で発生しますか
削除の請求、特定の手続、損害賠償の請求は、それぞれ別の手続ですので、段階ごとに費用が生じます。初動の段階では、保全の方法の確認と手続の選択の助言が中心となりますので、費用の負担は限定されます。全体の見通しと各段階の費用は、最初の相談の際に書面で提示を受けてください。
おわりに
投稿への対応の成否は、法律の議論の巧拙ではなく、最初の数日間の作業の質によって決まります。範囲を確定し、証拠を固定し、社内の行動を統制し、手続の順序を決める。この四つを速やかに終えれば、その後の選択肢は広く残ります。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
会社に対する誹謗中傷の初動対応に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
出典
- 民法第709条(不法行為による損害賠償)、第710条(財産以外の損害の賠償)、第723条(名誉毀損における原状回復)
- 刑法第230条第1項(名誉毀損)、第231条(侮辱)、第233条(信用毀損及び業務妨害)
- 不正競争防止法第2条第1項第21号(競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布)、第3条第1項(差止請求権)
- 民事保全法第23条第2項(仮の地位を定める仮処分命令)
- 特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(平成13年法律第137号)第5条(発信者情報の開示請求)、第8条(発信者情報開示命令)
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