飲食店を営む会社に、来店したことのない人物と思われる書き込みが載った。注文していない料理について異物が入っていたと記され、対応した従業員の氏名まで書かれているが、その日その従業員は勤務していない。予約の数が翌週から落ち、既存の常連客からも問い合わせが入る。こうした御相談を、店舗を運営する会社の皆様から数多くお受けします。
口コミの書き込みは、店舗又は事業所を構える事業にとって、集客の主要な入口です。入口に否定的な記述が並べば、来店の判断は変わります。他方で、書き込みの内容は利用者の感想でもありますので、否定的であることのみを理由に消させることはできません。事業者が困るのは、この二つの性質が一つの画面に混在している点にあります。
結論から申し上げます。口コミへの対応は、書き込み全体を消そうとするのではなく、一文ごとに、事実を述べた部分と感想を述べた部分とに切り分け、事実を述べた部分のうち客観的な資料によって否定できるものだけを対象とすることによって、初めて実現します。全体をまとめて削除の対象とする主張は、事業者の側の資料が十分であっても通りません。以下、順に御説明します。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
書き込みへの対応は、対象となる書き込みの性質によって作業が異なりますので、次のとおり切り分けます。
- 店舗又は事業所に対する評価の書き込みに、事業者として対応する場面……本記事
- 削除を求める手続の全体の流れを確かめる場面……インターネット上の投稿の削除請求|任意の削除から仮処分までの手順
- 名誉毀損が成立するかどうかを正面から検討する場面……名誉毀損・侮辱への対応|成立要件と、刑事責任・民事責任の選び方
- 書き込んだ者を裁判所の手続で特定する場面……発信者情報開示命令の申立ての手続と要する期間
- 書き込みを見つけた直後の社内の作業の場面……会社に対する誹謗中傷が発生した直後に行う記録の保全と初動
口コミには、消してよいものと消すことができないものがあります
書き込みは、内容によって四つに分かれます。第一に、来店の事実があり、体験した出来事をそのまま記した書き込みです。第二に、来店の事実はあるが、出来事の内容が事実と異なる書き込みです。第三に、来店の事実自体がない書き込みです。第四に、出来事の記述を伴わず、評価の言葉のみが並ぶ書き込みです。
第一の類型は、内容が事業者にとって不利益であっても、削除の対象とはなりません。第四の類型も、表現が社会的に許容される限度を著しく超えるものでない限り、同様です。対応の対象となるのは、主として第二及び第三の類型です。
したがって、最初の作業は、書き込みを類型に振り分けることです。この振り分けを行わずに、否定的な書き込みを一括して削除の対象とする姿勢を採りますと、掲載の場を運営する事業者から、正当な評価に対する介入と受け取られ、以後の申請そのものが軽く扱われる結果を招きます。対象を絞ることが、かえって成功の確率を高めます。
意見及び論評と、事実の摘示との区別
区別の基準は、その記述が証拠によって真偽を確かめることのできる事柄を述べているかどうかです。「不味かった」は、書き手の感じ方の表明ですので、真偽を確かめることができません。「消費期限を10日過ぎた食材を使っている」は、真偽を確かめることができます。前者が意見及び論評、後者が事実の摘示に当たります。
難しいのは、両者が一文の中に混在する場合です。「対応がひどい。店長が客に向かって怒鳴っていた」という記述であれば、前段は評価、後段は事実の摘示です。この場合、後段について資料を揃えることになります。逆に「衛生管理がなっていない」とだけ書かれている場合には、評価にとどまるものと扱われる余地が大きく、対応が難しくなります。
刑法第230条の2第1項は、名誉毀損の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しないと定めています。飲食物の衛生や役務の安全に関する記述は、公共の利害に関する事実に当たり得ますので、事業者の側は、その記述が真実でないことを積極的に示す必要があります。この構造を理解しておくことが、対応の設計の前提となります。
削除の申請と、削除の請求との違い
削除を実現する経路は二つに分かれます。一つは、掲載の場を運営する事業者が定める規約に基づき、規約に違反することを理由として削除を求める経路です。もう一つは、権利の侵害を理由として、法的な請求として削除を求める経路です。
前者は、費用がかからず、結果が出るまでの日数も短いという利点があります。他方で、判断の基準は運営する事業者の規約であり、法的な違法性の有無とは一致しません。事実に反する記述であっても、規約上の削除の理由に当たらないとして応じられない場合があります。
後者は、権利の侵害を根拠としますので、根拠となる資料を揃える負担が重くなります。任意の請求に応じられない場合には、裁判所の手続に進みます。書き込みが継続的に売上げに影響を与えている場合には、削除を求める仮処分の申立てを検討することになります。
実務では、まず前者を試み、応じられない場合に後者へ進む段取りを採ります。ただし、前者の申請を行う前に、書き込みの内容と掲載の場所を保全してください。申請が通って削除された後では、後の損害賠償の請求において、書き込みの内容を立証することができなくなります。
事実と異なることを、どのように示すのか
示し方は、書き込みが述べる事実の種類によって異なります。来店の事実が争点となる場合には、予約の記録、注文の記録、決済の記録、店内の記録装置の映像が資料となります。記録装置の映像は保存の期間が短いことが通常ですので、書き込みを見つけたその日のうちに、該当する日時の分を切り出して保存してください。
従業員の言動が争点となる場合には、当該日時の勤務の割り当てを示す記録、出退勤の記録、及び同席していた他の従業員の陳述が資料となります。書き込みに従業員の氏名が記載されている場合には、その氏名の者が当日勤務していなかったことを示す資料が、そのまま反証となります。
商品又は役務の内容が争点となる場合には、仕入れの記録、原材料の表示、検査の記録、取扱いの手順書が資料となります。役務の提供に関する記述であれば、契約書、見積書、作業の報告書が資料となります。
資料は、書き込みの一文ごとに割り当ててください。「この書き込みは全体として事実に反する」という主張ではなく、「この文が述べる事実は、この資料によって否定される」という対応の表を作ります。この表が、規約に基づく申請でも、裁判所の手続でも、そのまま提出の資料となります。
同業者又は元従業員による投稿が疑われる場合
書き込みの内容に、外部の者が知り得ない情報が含まれている場合、書き手が内部の事情を知る者である可能性を検討します。仕入れ先の名称、社内で用いている略称、公表していない人事の情報がこれに当たります。
書き手が同業の事業者である場合には、不正競争防止法の適用を検討します。同法第2条第1項第21号は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為を不正競争としています。同法第3条第1項は、不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その侵害の停止又は予防を請求することができると定めています。同法第4条は、故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。
もっとも、書き手が判明していない段階で同業者であると断定してはなりません。推測に基づいて特定の同業者の名を社内で口にすることは、その者の名誉を害する行為となり得ます。疑いは、書き込みの内容の分析と、書き込みの時間帯の傾向の整理にとどめ、判断は開示の手続を経てから行ってください。
返信をする場合の書き方と、してはならない書き方
掲載の場に事業者が返信を書くことができる仕組みが設けられている場合、返信の要否を検討します。返信を読むのは、書き手ではなく、これから来店を検討している第三者です。この点を見誤ると、書きぶりを誤ります。
返信に書いてよいのは三つです。第一に、事実の経過のうち、記録によって裏付けのあるもの。第二に、当該事案について採った改善の措置。第三に、直接の連絡の方法の案内です。いずれも、短く、感情を交えずに記します。
書いてはならないのは五つです。第一に、書き手の人格に関する評価。第二に、書き手が来店していないという断定。第三に、書き手を特定し得る情報です。予約の内容、注文の内容、同伴者の有無を返信に書きますと、事業者の側が利用者の情報を明かしたこととなり、非難の対象が入れ替わります。第四に、法的な措置を採るという予告です。第五に、他の利用者の書き込みへの言及です。
返信を書かないという選択も、正当な判断です。削除の申請と並行して返信を書きますと、当該書き込みが新しい書き込みとして扱われ、上位に表示される場合があります。順序としては、保全、削除の申請、その結果を見ての返信の要否の判断、という運びが安全です。
営業上の損害を賠償させることができる場合
賠償を求めるためには、書き手を特定し、書き込みと損害との間のつながりを示す必要があります。民法第709条は、故意又は過失による権利又は法律上保護される利益の侵害について、加害者が損害を賠償する責めに任ずる旨を定めています。民法第710条は、財産以外の損害についても同様の責任が及ぶ旨を定めています。
損害の内容は、四つに整理できます。第一に、売上げの減少です。書き込みの前後の期間を、前年の同じ期間及び近隣の同種の事業の傾向と対比して示します。第二に、予約の取消しです。取消しの際に理由が述べられている場合には、その記録が有力な資料となります。第三に、対応に要した費用です。第四に、無形の損害です。
第一の点は、立証が容易ではありません。売上げの変動には、季節、天候、価格の改定、近隣の状況といった他の要因が含まれるためです。したがって、書き込みの前後で他の条件が変わっていないことを示す資料を、あわせて準備してください。書き込みが掲載された日を境として、日別の来店の数が明確に変化していることを示す表が、最も分かりやすい資料となります。
なぜ削除だけでは再発を止められないのか
削除が実現しても、書き手は残ります。同一の者が、別の場所に、表現を変えて同趣旨の記述を投稿することを妨げるものはありません。削除は、既に生じている表示を止める措置であって、将来の投稿を止める措置ではないためです。
再発を止める方法は二つです。一つは、書き手を特定し、直接に責任を追及することによって、投稿を続ける動機を失わせる方法です。もう一つは、書き手が従業員又は取引の関係者である場合に、契約上の関係の中で対応する方法です。前者は費用と期間を要しますが、繰り返される投稿を止める効果は確実です。
したがって、書き込みが一度限りのものであれば削除で足り、繰り返されているのであれば特定に進む、という判断の基準を最初に定めてください。判断の材料は、書き込みの回数、間隔、内容の類似性、及び投稿の時間帯です。この四つを表にして管理し、二回目以降の投稿が現れた時点で、特定へ進む方針に切り替えます。
弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期
この場面で弁護士が担うのは、書き込みの一文ごとの類型の振り分け、資料との対応の表の作成、規約に基づく削除の申請の文案の作成、権利の侵害を理由とする削除の請求、削除を求める仮処分の申立て、書き手の特定の手続、及び特定後の交渉と請求です。返信の文案の点検も、実務上は有用な役割です。
刑法第233条は、虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者を処罰の対象としています。来店の事実がないにもかかわらず具体的な出来事を作り上げて投稿する行為については、この規定の適用の可否を検討します。刑事の手続を選ぶかどうかは、書き込みの回数と内容の悪質さを見て判断します。
依頼の時期は、書き込みが二回目に現れた時点、又は一回目であっても予約の取消しが現に生じた時点です。売上げへの影響が確認できてから相談するという順序では、記録装置の映像が保存の期間を過ぎ、来店の事実を否定する資料を失っている場合があります。
いま確認していただきたいこと
対象とする書き込みを一つ選び、文ごとに番号を振ってください。各文について、事実の摘示か評価かを記し、事実の摘示であるものについて、否定するために必要な資料の名称と、その資料が現に手元にあるかどうかを記載します。
次に、店内の記録装置の映像の保存の期間を確認してください。期間が短い場合には、書き込みに記載された日時の前後を切り出し、別の場所へ保存します。あわせて、当該日時の予約、注文、決済及び勤務の割り当ての記録を、印刷して保管してください。
最後に、書き込みが掲載された日を境として、日別の来店の数又は受注の数を、前後それぞれ4週間分並べた表を作成してください。この表は、削除の請求の場面でも、損害賠償の請求の場面でも、そのまま用いることができます。
よくあるご質問
星の数だけが低く付けられ、本文が書かれていない場合はどうなりますか
本文を伴わない評価は、事実の摘示を含みませんので、削除を求める根拠を立てることが困難です。同一の者が短期間に多数の評価を繰り返している等の事情がある場合には、掲載の場を運営する事業者の規約に基づく申請を検討します。
書き込みを消してもらう代わりに金銭を求められた場合はどうすればよいですか
応じてはなりません。支払に応じますと、同種の要求が繰り返される端緒となります。要求の内容、日時、方法を記録し、そのまま弁護士に提示してください。要求の態様によっては、刑事の手続の対象となり得ます。
従業員が個人で反論を書き込んでしまいました
直ちに中止させ、書き込んだ内容を保存したうえで、当該従業員の書き込みを削除させてください。会社の従業員による書き込みは、会社の見解として受け取られます。あわせて、社内に対し、書き込みへの対応の窓口を明示し、個人での対応を禁じる旨を周知してください。
削除が実現すれば、検索の結果からも消えますか
掲載の場から書き込みが消えても、検索の結果の一覧に要約として残る期間があります。表示の更新には日数を要しますので、削除の完了の後も一定の期間は確認を続けてください。要約のみが残り続ける場合には、その表示について別途の申請を行うことになります。
書き込みを見つけてから何日以内に動く必要がありますか
削除の申請そのものに期限はありませんが、書き手を特定する手続を予定するのであれば、日数の経過が致命的になります。加えて、店内の記録装置の映像は短期間で上書きされます。発見の当日に映像を保存し、翌営業日までに資料の対応の表を作ることを目安としてください。
おわりに
書き込みへの対応で結果を分けるのは、主張の強さではなく、切り分けの正確さです。一文ごとに性質を見極め、資料を割り当て、対象を絞る。この作業を行った申請は通り、行わなかった申請は通りません。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
事実と異なる口コミへの対応に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
出典
- 民法第709条(不法行為による損害賠償)、第710条(財産以外の損害の賠償)、第723条(名誉毀損における原状回復)
- 刑法第230条第1項(名誉毀損)、第230条の2第1項(公共の利害に関する場合の特例)、第233条(信用毀損及び業務妨害)
- 不正競争防止法第2条第1項第21号(競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布)、第3条第1項(差止請求権)、第4条(損害賠償)
- 特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(平成13年法律第137号)第3条(損害賠償責任の制限)、第5条(発信者情報の開示請求)
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