
インターネットやSNSの普及により、誰もが情報発信できる時代となった一方で、匿名性を盾に悪質な誹謗中傷が後を絶ちません。ある調査によると、日本人の約15%がオンライン上で誹謗中傷を受けた経験があるとされています。あなたやあなたの大切な人が突然その標的になったとき、どう対処すればよいのでしょうか。
「傷つく書き込みを見つけたけれど、どうやって削除すればいいの?」
「証拠はどう残せばいい?スクリーンショットだけでは不十分?」
「削除されない場合、どこまで法的措置を取れるの?」
このような疑問をお持ちの方のために、本記事では弁護士の専門知識をもとに、SNS上の誹謗中傷から身を守るための具体的な手順を解説します。証拠保全の正しい方法から、各SNSプラットフォームでの効果的な削除申請の手順、さらには法的措置まで、実践的なノウハウをお伝えします。
2022年の法改正により、インターネット上の誹謗中傷に対する法的保護が強化されました。これにより、被害者がより簡易な手続きで投稿者情報を開示できるようになっています。最新の法制度や判例を踏まえた対策を知ることで、あなたの権利を守ることができます。
それでは、SNS誹謗中傷対策の第一歩として、まず適切な証拠保全の方法からご説明していきます。
1. SNS誹謗中傷の証拠保全方法~スクリーンショットだけでは不十分な理由
SNSでの誹謗中傷に直面したとき、まず行うべきは確実な証拠保全です。単にスマホの画面をスクリーンショットするだけでは、法的手続きにおいて証拠として不十分なケースが多いのをご存知でしょうか。
証拠保全で最も重要なのは「改ざんされていない証拠」を確保することです。スクリーンショットは画像編集ソフトで容易に改変できるため、裁判所や相手方から「本当にこの投稿があったのか」と信憑性を疑われることがあります。
より確実な証拠保全方法としては、以下の手順が推奨されます:
1. 投稿URLを含めたスクリーンショットを撮影する
2. 投稿日時やアカウント情報も一緒に記録する
3. 可能であればWeb公証サービスを利用する
特に注目すべきはWeb公証サービスです。法務省が認定する公証役場でのサイト内容保全や、第三者機関によるタイムスタンプ付きの証明書取得により、「特定の日時にその投稿が確かに存在した」という法的証明力が格段に高まります。
弁護士法人ガイアでは「SNSの書き込みだけでスクリーンショットを撮ったケースで、証拠が不十分と判断されてしまった事例が少なくない」と指摘しています。
また、証拠保全と同時に行うべきなのが投稿内容のバックアップです。誹謗中傷を行った相手が投稿を削除してしまうと、証拠が消えてしまうためです。特にストーリー機能のある Instagram や Twitter(X)では、投稿が自動的に消えるため、発見次第すぐに証拠を確保することが重要です。
証拠の信頼性を高めるためには、複数の方法を組み合わせることも効果的です。法的対応を視野に入れる場合は、早い段階で専門家に相談することで、適切な証拠保全方法をアドバイスしてもらうことができます。
2. 弁護士が教える!誹謗中傷投稿の削除要請で成功率が高まる3つのポイント
SNS上の誹謗中傷投稿を削除するには、単に「消してほしい」と依頼するだけでは不十分です。実際の削除要請では、法的根拠を示し、適切な手順で行うことが成功への鍵となります。誹謗中傷被害に遭われた方に向けて、削除要請の成功率を高める3つの重要ポイントを解説します。
まず第一に、「法的根拠の明確化」が不可欠です。削除要請の際は、問題となる投稿がどの法律に違反しているのかを具体的に示す必要があります。名誉毀損(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条)、プライバシー権侵害などが典型的な根拠となります。特に名誉毀損の場合は、事実の摘示と社会的評価の低下の両面から説明できると説得力が増します。
第二に、「証拠の適切な保全と提示」です。問題の投稿内容をスクリーンショットで保存し、URLや投稿日時、投稿者情報なども記録しておきましょう。これらの証拠は時系列で整理し、何がどのように権利侵害になっているかを明確に示すことが重要です。特に画像付きの誹謗中傷の場合は、画像も含めて保全し、投稿全体の文脈を把握できるようにすることで、削除の判断がされやすくなります。
第三に、「プラットフォームごとの適切な手続きの遵守」です。各SNSプラットフォームには独自の削除申請フォームやガイドラインがあります。Twitterなら「違反報告」機能、Instagramなら「問題を報告」機能など、適切な窓口を通じて申請することが重要です。また、プラットフォームが定める「コミュニティガイドライン違反」の観点からも申請理由を補強すると、対応が早まることがあります。
これらのポイントを押さえた上で削除要請を行えば、単独での申請よりも明らかに成功率が高まります。しかし、複雑なケースや対応が進まない場合は、早めに弁護士への相談を検討されることをお勧めします。専門家による法的アプローチが、効果的な解決への近道となるケースも少なくありません。
3. 知らないと損する!SNS各社の削除申請フォームと記入例を徹底解説
SNS各社は誹謗中傷対策として専用の削除申請フォームを用意しています。しかし、申請方法や必要事項は各社で異なるため、正しい手順を知っておくことが投稿削除成功の鍵となります。ここでは主要SNS各社の削除申請フォームへのアクセス方法と記入例を解説します。
■Twitter(X)の場合
Twitterでは「違反報告フォーム」から誹謗中傷投稿の削除申請が可能です。ヘルプセンターから「安全性とセキュリティ」→「違反を報告する」と進み、フォームにアクセスします。記入時のポイントは以下の通りです。
【記入例】
・違反内容:「嫌がらせ・ヘイト行為」を選択
・詳細説明:「投稿URLの〇〇という表現は、私の名誉を毀損する虚偽の事実を含み、プライバシー権を侵害しています」と具体的に記載
・証拠添付:問題の投稿のスクリーンショットを添付
■Instagramの場合
Instagramでは投稿右上の「…」から「報告する」を選択するのが最も早い方法です。また、メタヘルプセンター内の「権利侵害の報告」からも専用フォームにアクセス可能です。
【記入例】
・報告理由:「嫌がらせまたはいじめ」または「虚偽の情報」を選択
・関係性:「自分自身について」を選択
・詳細説明:「投稿内容は事実と異なり、私の社会的評価を不当に低下させるもので、プライバシーを侵害しています」と記載
■Facebookの場合
Facebookでは投稿の右上「…」から「投稿を報告」を選択するか、メタ権利侵害申告フォームから申請可能です。法的問題の場合は後者がおすすめです。
【記入例】
・申告種別:「プライバシー権侵害」または「名誉毀損」を選択
・関係者情報:自分の立場を明記(「投稿の対象となっている本人」など)
・具体的説明:「投稿は私に関する虚偽の事実を含み、社会的評価を不当に低下させるものです。具体的には〇〇という部分が事実と異なります」と詳述
■LINE公式アカウントやオープンチャットの場合
LINEでは「LINE安心安全ガイド」ページから「通報フォーム」にアクセスできます。また、トーク画面の右上から「通報する」を選択することも可能です。
【記入例】
・違反内容:「誹謗中傷・名誉毀損」を選択
・URL/ID:問題となるアカウントIDやトークルームID
・詳細説明:「投稿者は私のプライバシー情報を無断で公開し、〇〇という虚偽の事実を広めています」と具体的内容を記載
申請時の共通ポイントとして、感情的な文章は避け、客観的事実と法的根拠を簡潔に記載することが重要です。また、プラットフォーム側が迅速に判断できるよう、該当投稿のURLやスクリーンショットは必ず添付しましょう。中立的な立場で「なぜこの投稿が問題なのか」を説明することで、削除可能性が高まります。
4. 削除されない場合の対処法~発信者情報開示請求から法的措置まで完全ガイド
SNS運営者に削除依頼をしても対応してもらえないケースは少なくありません。そんな場合は法的手段に移行する必要があります。まず「発信者情報開示請求」を行い、誹謗中傷の投稿者を特定することが重要です。この手続きは2段階に分かれており、最初にSNS運営会社に対して発信者のIPアドレスなどの開示を求め、次にプロバイダに対して実名や住所の開示を請求します。
発信者情報開示の申立てには「権利侵害の明白性」と「開示の正当理由」の2つの要件を満たす必要があります。特に「権利侵害の明白性」については、単なる批判や感想ではなく、社会的評価を低下させる事実の摘示や、侮辱に当たる表現であることを示さなければなりません。
開示された情報をもとに、誹謗中傷の投稿者に対して「損害賠償請求」を行うことが可能です。実際の訴訟では、東京地裁で会社の口コミサイトへの悪質な書き込みに対して300万円の賠償命令が出されたケースや、最高裁でTwitterでの名誉毀損に150万円の賠償が認められた判例があります。
また、悪質な誹謗中傷については「刑事告訴」という選択肢もあります。名誉毀損罪(刑法230条)は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」、侮辱罪(刑法231条)は「1年以下の懲役もしくは禁錮または30万円以下の罰金」が定められています。
これらの法的措置を講じる際は、証拠の保全が不可欠です。画面のスクリーンショットだけでなく、投稿URLや投稿日時、投稿内容のテキストなどを記録しておきましょう。特に削除される恐れがある場合は、法的証拠能力を持つ「公証役場」でのインターネット公証サービスの利用も検討すべきです。
なお、これらの手続きは専門知識を要するため、東京弁護士会や第二東京弁護士会などが運営する「インターネット法律相談」や、日本弁護士連合会の「弁護士紹介センター」などを通じて、ネット誹謗中傷に強い弁護士へ相談することをおすすめします。特に近年はネット専門の法律事務所も増えており、早期の法的サポートを受けることで問題解決の可能性が高まります。
5. 最新判例に学ぶ!SNS誹謗中傷の賠償金相場と請求できる精神的苦痛の範囲
SNS上の誹謗中傷による精神的苦痛に対する賠償金額は、近年の判例で高額化傾向にあります。これまでSNS誹謗中傷の慰謝料は数十万円程度が一般的でしたが、最近では状況によって100万円を超える判決も出ています。
特に注目すべきは、東京地裁でのTwitter誹謗中傷事件判決です。一般人が受けた継続的な中傷に対し、130万円の慰謝料が認められました。また、著名人への中傷では、影響力の大きさを考慮して200万円を超える賠償金が命じられたケースもあります。
請求できる精神的苦痛の範囲も広がりつつあります。従来は「社会的評価の低下」が中心でしたが、最近の判例では以下の要素も考慮されるようになっています:
1. 継続的な精神的ストレス
2. 日常生活への支障(不眠や食欲不振など)
3. 医療機関での治療が必要になった場合の精神的負担
4. 誹謗中傷による仕事や収入への影響
また、投稿の拡散規模や期間によっても賠償額は変動します。フォロワー数が多いアカウントからの中傷や、リツイートなどで広く拡散された場合は、より高額な賠償が認められる傾向にあります。
誹謗中傷を受けた場合は、SNS上の証拠保全(スクリーンショットなど)を確実に行い、可能であれば精神的苦痛の客観的証拠(診断書など)も準備することで、適切な賠償を受けられる可能性が高まります。弁護士費用特約付きの保険に加入している場合は、それを活用することも検討すべきでしょう。